励磁突入電流発生メカニズムとその抑制のためのアルゴリズム

無負荷で運転中の変圧器が手動操作により系統から解列される時、三相鉄心は磁化されたままとなり残留磁束φabcがそのまま残ります。次に変圧器が位相タイミングθclで再課電されるとき、電源系統側の電圧の初期課電によって鉄心に初期励磁磁束φa(tcl),φb(tcl),φc(tcl)が加わります。残留磁束φabcと再課電による初期励磁磁束φa(tcl),φb(tcl),φc(tcl)が各相共に同極性でそのスカラー差が小さければ突入電流現象は抑制されますが、いずれかの相で極性が異なってスカラー差が大きくなれば鉄心内過渡磁束が飽和値を上回ることになって甚だしい突入電流現象が生ずることになります。したがって、変圧器遮断後の各相鉄心に残る残留磁束の値について極性を含むスカラー値として正しく知ることが突入電流抑制制御アルゴリズムの重要な技術的要素となります。ところでその残留磁束φabcは変圧器が時間top0で解列された瞬間における鉄心内磁束φa(top0),φb(top0),φc(top0)とは極性も大きさも異なる値となります。理由は次の通りです。
図2-1
図 2-1は無負荷状態(低圧側遮断器Br2開放状態)で課電されている変圧器Tr回路を代表1相で示しています。この状態で変圧器低圧側巻線には線路の浮遊キャパシタンスやサージ吸収器などによるループ回路が構成されています。したがって、高圧側遮断器Br1の開操作により変圧器が解列された直後において電圧・電流・磁束の過渡現象が短時間続くことになります。電圧va(t),vb(t),vc(t)および電流ia(t),ib(t),ic(t)は減衰して過渡現象終息時点top1では消滅し、鉄心磁束φa(t)b(t)c(t)は(電圧の積分値ですから)過渡的変化を伴いつつtop1時点で一定値φa(top1),φb(top1),φc(top1)に終息します。この終息値が鉄心に残される真の残留磁束ということになります。 ところで、上述の変圧器解列操作の前後において回路は三相平衡であり、また遮断器Br1による変 圧器の非常に小さい励磁電流遮断では三相ともtop0での同時遮断となりますので(電流ゼロ点遮断のような相による時間差を生じない)上述の過渡現象では三相平衡条件が保全されています。したがって鉄心に残る残留磁束も三相平衡状態であるといえます。
図2-2
図 2-2は化学工場の受電用変圧器(220/110kVA, 250MVA, Y-Δ, 60Hz)用として採用された本抑制装置によって記録された変圧器解列直後の過渡現象の様相を示しています。上段は電圧波形(VT2次電圧の実測値)と磁束波形(電圧の積分演算による生成波形)の過渡現象の模様を示します。また下段にはこれら電圧波形および磁束波形を回転フェーザとして可視化描写したものです。電圧フェーザは回転しつつ減衰して過渡現象終息時点top1において消滅しています。また磁束フェーザも回転しつつ縮退し、top1時点で三相平衡状態のままで一定値に収束して残留磁束となっています。各相の残留磁束は遮断瞬時top0における磁束値とは極性も絶対値も異なるスカラー値となっています。本装置では各相の残留磁束をほぼ三相平衡なφaop1),φbop1),φcop1)として演算記憶しておき、次に変圧器を再課電する時には遮断器投入の位相タイミングθclが残留磁束の位相θop1とほぼ一致するように投入位相制御を行います。(詳しいアルゴリズムは「弊社特許方式」を参照)

励磁突入電流抑制のアルゴリズム(弊社特許方式)

本装置は、既に多数の変電所に供されてその極めて優れた突入電流現象抑制効果がフィールドデータとして実証されております(典型的実例を「導入事例」に示します)。したがって本装置の制御方式の基礎理論もまたすでにフィールドで実証済みということになりますが、以下では装置開発時点で弊社が模擬送変電システム(電圧220V)で行った制御方式の綿密な評価のための実証試験の結果について報告いたします。
模擬送電試験では変圧器解列の位相タイミングθop0で変圧器解列を行い、またその都度過渡現象時間帯の各相の電圧波形(実測)とで磁束波形(積分演算で生成)と過渡現象終了時点における三相残留磁束を回転フェーザの大きさと位相角θop1として記録します。 また、次に変圧器を再課電したときの遮断器投入位相角θclと励磁突入電流の最大値op1cl,I)を記録します。はこのような開閉試験を多数回繰り返して実測した結果をop1cl,I)の三次元曲面として描いた結果が図 2-3です。
図2-3
同じ試験結果で突入流電流が最大値および最小値を占める領域をop1cl)の座標として示したのが図 2-4です。本図ではθop1θclがほぼ同一位相の領域おいては突入電流Iは極小値を示し、またθop1θclが180度の逆位相関係にある場合には突入電流Iが最大値となっていることを極めて高い精度で示されております。 この試験で、逆位相角での遮断器投入により記録された最大の突入流電流波形を図 2-5に示します。また最適の位相角(本装置のアルゴリズム通り)での遮断器投入により突入電流がほとんど消滅している状況を図 2-6に示します。
図2-4
図2-5, 2-6

最適アルゴリズム:残留磁束最小相スカラー値一致制御

本装置では変圧器遮断直後においてその過渡現象終息後の真の残留磁束値が「縮退した状態で位相角θop1にて静止したほぼ正三角形の三相フェーザ」として演算記憶されている。そこで変圧器の再課電では遮断器の投入位相角θclが極力θop1に一致するように制御する。 その制御アルゴリズムを図 2-7にして説明する。図中の小さい三角形は残留磁束のフェーザを示している。そのスカラー値が最小の相(図ではa相)を基準相として選択する。この時初期励磁磁束(図の大きい三角形)の基準相aのスカラー値が残留磁束のスカラー値と一致する(∆Φa=0となる)位相角タイミングが毎サイクルに2度存在する(図 2-7および2-8)。 図2-7ではb相の残留磁束と初期励磁磁束は極性が一致して∆Φbも十分に小さく、さらにc相についても同様である。本装置ではこのような位相角タイミングを選んで投入する理想的な制御アルゴリズムを採用している。 なお図 2-8では∆Φa=0となるもう一つのタイミングを示している。この場合にはbc相ともに残留磁束と初期励磁磁束の極性が異なるほぼ逆位相の状態にあり∆Φb, ∆Φcが極めて大きく過大な突入電流が避けられないケースである。図 2-72-8の両者は磁束のbc相磁束の極性によって容易に区別が可能であり、図 2-7に示す最善の投入位相角を実現することができる。
図2-7
図2-8
Inrush-Limiter T1 プロモーション
Page top